日本イノベーション融合学会 理事長 西山敏樹
私が学部1年生として慶應義塾大学SFC総合政策学部に入学したのは,1994年のことである.当時の慶應SFCといえば,学際系学部の先導的存在で内外から注目されていた.政策やマーケティング等の社会科学,情報科学や環境工学等の自然科学の教員がバランスよく学部に配置され,各分野から知的な刺激をもらった.同時に一番付き合いのあった人間環境分野の教員グループは,未来の知の風景について真剣に考えられ,議論していた.若い我々にも,知の融合で知の風景がどのように変化するか,そして社会の風景がどの様に変わるかを講義課題等を通じて常に考えさせてくれた.知の風景とは面白い表現だが,縦割りでない学問融合をテーマにしたSFCならではの概念である.
私は結局後期博士課程に進み,博士号取得,さらには有期教員として計21年を慶應義塾で過ごした.そのプロセスで専門領域のユニヴァーサルデザインとエコデザインを融合させ,同時解決させることが交通分野をはじめとしたイノベーションに寄与するとの結論に達して,今日まで研究を展開している.低床な電動フルフラットバス,低エネルギーな自動運転型パーソナルモビリティ,環境低負荷な鉄道を活かした買い物列車(走るスーパー)等,エコでユニバーサルデザインに繋がる試みを実践的に研究してきた.効率良くSDGsを実現する上でも,国際的に領域融合的同時解決性の重要性が問われている.
ユニバーサルデザインとエコデザインの癒合のような領域融合的同時解決性は,まさしく近未来のSDGs時代の知の風景である.個々のイノベーションの成果にあえて満足せず,個々のイノベーションをマッピングして俯瞰的にとらえる姿勢こそが,日本イノベーション融合学会の社会先導的役割である.マッピングされた個々のイノベーションの風景から,それをつなぎ合わせて新しい知を紡ぎ出す.また行間にある知を表に出す.従来にない最先端の知を創出することも大切である.日本イノベーション融合学会は,個々のイノベーションを知の風景として眺めながら,従来にない全く新しい知を創出し,学問的貢献,ビジネス分野への応用的貢献をするプロ集団として社会的存在感を高めることが大切で,会員の皆様にもその志を大切にして頂きたく思う.
2021年10月に日本イノベーション融合学会の2代目理事長を拝命し,早くも8ヶ月が経過する.初代理事長の高梨智弘先生のご遺志,生前酒を酌み交わし語り合ってきたことを胸に,小生の代の学会2.0の大目標を次の様に設定した.
「DX社会を鑑みて,各界のイノベーションに満足せず,リアル及びサイバーの双方でそれらをつなぎながら新しい知を体系化して,ビジネスおよび学問に新しい風を吹き込む.そして生活者のウェルビーングや幸福度の最大化を学際的に達成することを大目標にする」
まさに領域融合的同時解決性のメッセージを込めた日本イノベーション融合学会の新しい大目標である.生活者のウェルビーイングや幸福度の最大化を目指して,領域融合的な問題解決の実践例を学会全体で増やしたいと考える.一般社団法人化も果たし,学会の一層の発展に向けてご協力をお願いしたい.
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西山 敏樹 (Toshiki Nishiyama, E-mail nishibus@tcu.ac.jp)
東京都市大学 准教授 博士(政策・メディア) ユニヴァーサルデザイン研究室
大学院環境情報学研究科都市生活学専攻(博士後期課程・博士前期課程)/都市生活学部
〒158-8557 東京都世田谷区玉堤1-28-1 電話03-5707-0104
研究室ホームページ http://www.mobility-lab.info
兼務 一般社団法人 日本イノベーション融合学会理事長